不動産クラファンで損をする場面は「元本割れ」「遅延」「事業者の倒産」の3つに分けられ、それぞれ起き方も、劣後出資などの仕組みで防げる範囲も違います。元本割れは戻るお金が出資額より少なくなること、遅延は予定の日にお金が戻らないこと、倒産は契約の相手方の事業者そのものが立ち行かなくなることです。この記事ではリスクの仕組みを順に説明し、業界で実際に公表された出来事と、申し込む前に自分で確かめられることをまとめます。
前提:元本は保証されていない
不動産クラファンへの出資は預金ではなく、元本は保証されていません。不特法の募集でよく見かける匿名組合型では、契約が終わったとき事業者は出資の価額を返します。ただし出資が損失によって減っていれば、その残りの額を返せばよいと商法で定められています(商法542条)。分配についても、想定利回りは予定の値で、運用の結果によって減ったりなくなったりします。
元本割れはどう起きるか
不動産を運用する型の場合
不動産を運用する型では、分配と償還のもとになるお金は物件の賃料と、運用の最後に物件を売ったときの代金です。次のようなことが起きると、戻るお金が減ります。
- 物件を、買ったときより安い価格でしか売れない
- 空室が続く、または入居者が賃料を払わない
- 修繕や工事の費用が、予定より多くかかる
- 開発中の物件で、工事が遅れたり費用が増えたりする
運用期間の終わりに物件を売る募集では、売れる価格は売るときの市場の状況で決まりますので、申し込む時点では確定していません。
劣後出資は、損失を先に負う部分
優先劣後の仕組みをとる募集では、投資家(優先出資者)とは別に、事業者自身も出資しています。この事業者の出資を「劣後出資」と呼び、損失が出たときは劣後出資の部分から先に減らす取り決めになっています。
費用などを考えない単純な例で考えてみます。1億円の物件に投資家が9,000万円、事業者が劣後出資として1,000万円(10%)を出した募集なら、物件が9,000万円で売れた場合の1,000万円の損失は劣後出資が負い、投資家の出資は減りません。8,000万円でしか売れなければ、劣後出資の1,000万円を超えた分の1,000万円が投資家の出資から減ります。
劣後出資の割合は、案件ページに数字で出ている事業者と出ていない事業者があります。クラカレが記録した割合は次のとおりです。
| 事業者 | 記録した案件 | 劣後出資の割合(中央値) | 幅 |
|---|---|---|---|
| RRimple | 1件 | 30% | 30〜30% |
| 6件 | 10% | 5〜24.1% | |
| 12件 | 10% | 10〜17.68% | |
| 6件 | 10% | 10〜10% | |
| 7件 | 10.3% | 10.2〜10.6% |
劣後出資で防げるのは、取り決めた割合までの損失です。物件がなかなか売れなかったり賃料が入らなかったりする場合は、損失がまだ確定していなくても分配や償還が止まることがあり、劣後出資があってもそれは防げません。劣後出資の割合の読み方は「劣後出資の割合の見方」で詳しく扱います。
貸し付ける型の場合
貸付型では、分配と償還のもとになるお金は、貸付先が払う利息と返済です。貸付先の返済が遅れたり、返済できなくなったりすると、分配や償還が遅れたり減ったりします。担保が付いていても、その担保をいくらで売れるかや担保が誰のどの貸付に付いているかで、戻るお金は変わります。
金融庁は貸付型への投資について、貸付先の情報・資金の使い道・担保・返済の状況などの開示が十分かを確かめるよう呼びかけています。過去の行政処分の例としては、担保が付いていないのに付いているかのように表示した例や、ほかのファンドの出資金で償還していた例が挙げられています(金融庁「ソーシャルレンディングへの投資にあたってご注意ください」)。同じページでは、高い利回りは返済の遅れや貸し倒れのリスクが高いことを表している場合があるとも書かれています。
遅延・延長はどう起きるか
元本割れまでいかなくても、お金が戻る日が予定より遅れることがあります。
物件の売却が予定どおりに進まない
運用の最後に物件を売る募集では、買い手が見つからないと償還ができません。運用期間を延長できる取り決めが契約に入っている募集もあり、延長されるとお金が戻るのはその分だけ後になります。
賃料や返済の支払いが止まる
分配のもとになる賃料を払う借り手や、貸付型の貸付先の支払いが止まると、分配が遅れます。借り手が事業者のグループ会社の場合は、グループの資金繰りが分配に影響することになります。物件を一括で借り上げる契約(マスターリース)があるときは、借り上げているのが誰なのかを契約成立前書面で確かめておきましょう。
事業者側の資金繰り
事業者が自分の資金で解約や償還の一部をまかなっている場合、事業者の資金繰りが苦しくなると償還が遅れます。下で紹介する業界の出来事でも、このことが公表資料に書かれています。
事業者が倒産したらどうなるか
事業者が倒産したときに出資がどう扱われるかは、契約の形と、契約の相手方が誰かで変わります。
匿名組合型で、運営会社が契約の相手方の場合
商法では、匿名組合で出資したお金は営業者の財産に属すると定められています(商法536条)。運営会社が営業者として契約の相手方になっている募集では、投資家は運営会社に出資の返還を求める立場ですので、運営会社の倒産の影響を受けます。
不特法は、事業者に対して、契約に係る財産を自分の財産や他の契約の財産と分けて管理するよう求めています(不特法27条)。ただ分けて管理する決まりがあっても、匿名組合型で出資が営業者の財産に属するという商法の定めは変わりませんので、倒産したときの扱いは契約成立前書面で確かめておく必要があります。
特例事業者(SPC)が契約の相手方の場合
不特法は平成25年の改正で、倒産隔離型の仕組みとして「特例事業」を設けました(国土交通省「不動産特定共同事業(FTK)法の概要」)。物件を持つための別の会社(特例事業者)が契約の相手方になり、運用は第3号事業者に、募集は第4号事業者に任せる形です。運営会社の倒産から切り離すことを目的とした仕組みですが、物件価格の下落や賃料の減少による損失は、この仕組みでも生じます。
募集のサイトの運営会社が「媒介」の場合
第2号・第4号の事業者は、契約の代理・媒介をする立場で、契約の相手方は別の会社です。どの事業者がどの立場かは、広告に書くことが不特法で決められています(不特法18条2項)。許可の種類は「不動産特定共同事業法(不特法)の許可」で説明しています。
業界で公表された出来事
クラカレに掲載していない事業者の出来事ですが、償還の遅れなどのリスクが実際にどう表に出たかが、行政の公表資料に書かれています。日付と、公表資料に書かれている事実だけを挙げます。
| 日付 | 公表元 | 内容 |
|---|---|---|
| 2024年6月17日 | 東京都 | みんなで大家さん販売株式会社に、不動産特定共同事業に係る業務の一部停止30日間と指示(東京都の報道発表)。同じ日に大阪府も、都市綜研インベストファンド株式会社に業務停止命令と指示処分(2026年9月の大阪府の処分理由に記載) |
| 2025年10月14日 | 大阪府 | 都市綜研インベストファンド株式会社が事業参加者に解約に関する新たな提案をしたことを受け、事業参加者に具体的かつ分かりやすく説明するよう指導(大阪府の報道発表) |
| 2026年9月1日 | 大阪府 | 都市綜研インベストファンド株式会社(許可番号 大阪府知事第8号)の不動産特定共同事業の許可を取消し、指示(大阪府の処分理由。許可番号と会社名の対応は国土交通省の許可一覧による) |
| 2026年9月1日 | 東京都 | みんなで大家さん販売株式会社の不動産特定共同事業の許可を取消し、指示(東京都の報道発表) |
2026年9月1日の大阪府の処分理由には、次のことが書かれています。
- 2025年度の事業報告書で資産から負債を引いた額がマイナスとなり、許可の基準(資本金の額の100分の90以上)を満たさなくなったこと
- テナントから賃料が支払われていないことを代表取締役らが認識していながら、契約成立前交付書面の賃料の支払状況の欄に「該当なし」と記載して交付・説明し、280名から計6億4,300万円の出資を受けたこと
- 2026年6月30日時点で、9商品について償還期日までに出資を返せておらず、その額が事業参加者7,511名に対して計188億200万円であること
- 解約や償還を、グループ会社からの金銭の支援で行っていたが、そのグループ会社の資金繰りが悪化して支援を受けられなくなったこと
東京都の処分理由には、販売を代理した商品の対象不動産で賃料が支払われていなかったのに営業者に支払状況を調べないまま、契約成立前交付書面に「該当なし」と記載して交付・説明したことが書かれています。
この出来事は、上で説明した「賃料の支払いが止まる」「事業者側の資金繰り」による遅延と、契約成立前書面の記載が投資家の判断のよりどころになることを示しています。
申し込む前に自分で確かめられること
リスクをなくすことはできませんが、申し込む前に次のことを確かめておくと、どんな場面で損をしうるかが見えてきます。
事業者の許可と、契約の相手方
許可番号と事業の種別(第1号〜第4号)、契約の相手方が運営会社か特例事業者かを確かめます。許可は国土交通省の一覧で確かめられます。
契約の形
匿名組合型か任意組合型かで、出資が誰の財産になるかが変わります。違いは「匿名組合型と任意組合型の違い」をご覧ください。
劣後出資の割合と、出しているのは誰か
割合だけでなく、劣後出資を出しているのが事業者自身なのかグループ会社なのかも見ておきましょう。
分配のもとになるお金を、誰が払うのか
賃料を払う借り手や貸付先、マスターリースの借り手が誰か、事業者のグループ会社かどうかを確かめます。
契約成立前書面と財産管理報告書
契約成立前書面には、物件の状況や賃料の支払状況、利回りの根拠などが書かれています。2026年8月21日の施行規則の改正で、利回りの根拠や出資金の使い道などの説明事項が加わり、すでに許可を受けている事業者は2026年11月30日まで改正前の決まりによることができ、12月1日以降は新しい項目が求められます(国土交通省の報道発表)。運用中は、事業者が定期に出す財産管理報告書で、運用の状況を確かめられます(不特法28条)。
よくある質問
Q. 不動産クラファンで元本割れした例はありますか
A. 上の表のとおり、償還期日までに出資を返せなかった事例が行政の公表資料に書かれています。事業者が自ら公表している「元本割れ0件」などの実績の読み方は「「元本割れ0件」の読み方」をご覧ください。
Q. 劣後出資があれば元本は安全ですか
A. 劣後出資が損失を先に負うのは、取り決めた割合までです。それを超える損失は投資家の出資から減りますし、売却や賃料の支払いが止まって償還が遅れることは、劣後出資では防げません。
Q. 申し込んだ後に、やめることはできますか
A. 不動産特定共同事業の契約では、契約成立時の書面を受け取った日から8日を経過するまでの間、書面で契約を解除できます(不特法26条)。それを過ぎると、運用期間の途中で解約できないのが原則です。
この記事は一般的な説明です。個別の募集のリスクは、各事業者の募集ページと契約成立前書面で確かめてください。